不動産小口化商品とは?
基本的な仕組み
不動産小口化商品とは、1つの不動産(マンション、オフィスビル、商業施設など)を小口に分割して販売する金融商品です。
- 最低投資額:100万円~1,000万円程度(商品による)
- 法律上の位置づけ:不動産特定共同事業法(不特法)に基づく
- 投資家の権利:不動産の共有持分権または匿名組合の出資持分を取得
- 収益:家賃収入を原資とした分配金を受け取る
つまり、「大きな不動産を少額で購入できる商品」であり、従来は富裕層しか手が出せなかった都心の一等地物件にも、少額で投資できる点が特徴です。
なぜ人気なのか
不動産小口化商品が注目されてきた理由は、主に以下の2点です。
- 少額から都心の優良物件に投資できる:REITと異なり、現物不動産の持分を所有できる
- 相続税対策として非常に有効だった:評価額と時価の乖離を利用した節税スキーム
特に2つ目の相続税対策が、富裕層の間で爆発的に広まった最大の理由です。
不動産小口化商品の節税メカニズム
評価額と時価の「乖離」が節税の核心
不動産小口化商品による相続税対策の最大のポイントは、「相続税評価額」と「実際の取引価格(時価)」の間に大きな差があることです。
🔹 相続税評価額の計算方法(従来)
相続税評価額は、以下の方法で算出されます。
- 土地:路線価(時価の約80%)
- 建物:固定資産税評価額(時価の約60~70%)
これに加えて、賃貸物件の場合はさらに評価が下がります(借家権割合30%、借地権割合など)。
🔹 評価額が大幅に圧縮される理由
不動産小口化商品は、都心の賃貸物件を対象にすることが多く、以下の要因で評価額がさらに低く抑えられました。
- ✅ 路線価ベースで土地評価 → 時価の約80%
- ✅ 固定資産税評価額で建物評価 → 時価の約60~70%
- ✅ 賃貸物件のため借家権控除 → さらに30%減額
- ✅ 小口化による流動性の低さ → 実質的に評価が下がる
結果として、時価1億円の物件が、相続税評価額では3,000万円~4,000万円程度に圧縮されるケースもありました。
具体的な節税効果シミュレーション
📊 ケース1:現金1億円 vs 不動産小口化商品1億円
| 資産形態 | 時価 | 相続税評価額 | 相続税額(概算) |
|---|---|---|---|
| 現金のまま保有 | 1億円 | 1億円 | 約1,220万円 |
| 不動産小口化商品で保有 | 1億円 | 約3,500万円 | 約315万円 |
| 節税効果 | 約905万円! | ||
※相続税額は配偶者なし・子1人相続のケースで概算。基礎控除後の課税価格に対する税額。
📊 ケース2:相続財産3億円の富裕層の場合
| 資産構成 | 相続税評価額 | 相続税額(概算) |
|---|---|---|
| 全て現金・有価証券 | 3億円 | 約6,920万円 |
| うち1億円を不動産小口化 | 2億3,500万円 | 約4,920万円 |
| 節税効果 | 約2,000万円! | |
このように、資産規模が大きいほど、節税効果も絶大になります。これが富裕層の間で爆発的に広まった理由です。
タワマン節税との比較
タワマン節税とは
タワーマンション(タワマン)節税とは、タワーマンションの高層階を購入することで、相続税評価額を大幅に圧縮する節税スキームです。
2017年1月1日以前は、タワマンの評価額は「床面積」を基準に算出されており、高層階も低層階も評価額がほぼ同じでした。
しかし実際には、高層階は眺望が良いため、時価が低層階より数千万円高いという状況がありました。この乖離を利用して、富裕層は高層階を購入し、相続税を大幅に節税していました。
タワマン節税の規制(2017年)
国税庁はこの実態を問題視し、2017年1月1日以降、高層階になるほど評価額を高くする補正率を導入しました。
- 40階:評価額が約10%増
- 50階:評価額が約15%増
- 60階:評価額が約20%増
これにより、タワマン節税の効果は大幅に縮小しました。
不動産小口化商品との共通点
🔹 節税スキームの本質は同じ
- 評価額と時価の乖離を利用
- タワマン:高層階の眺望価値が評価額に反映されていなかった
- 不動産小口化:路線価・固定資産税評価額ベースで実態より低く評価
- 富裕層の相続税対策として利用
- どちらも「時価は高いが評価額は低い」資産に組み替えることで、相続税を圧縮
- 規制による評価方法の見直し
- タワマン:2017年に補正率導入
- 不動産小口化:2027年に「実際の取引価格ベース」へ見直し予定
- 駆け込み需要の発生
- 規制適用前に「購入」「贈与」を急ぐ動きが加速
タワマン節税との違い
| 比較項目 | タワマン節税 | 不動産小口化商品 |
|---|---|---|
| 対象資産 | タワーマンションの高層階 | 都心オフィス・商業施設等の小口持分 |
| 最低投資額 | 数千万円~数億円 | 100万円~1,000万円 |
| 流動性 | 中古市場で売却可能(やや時間がかかる) | 流動性が低い(売却困難) |
| 乖離の理由 | 高層階の眺望価値が評価に反映されない | 路線価・固定資産税評価額が時価より低い |
| 規制時期 | 2017年1月1日施行 | 2027年1月1日施行予定 |
| 規制後の効果 | 節税効果は大幅縮小(完全消滅ではない) | 節税効果ほぼ消滅の可能性(詳細未定) |
重要な示唆
タワマン節税の規制時と同様に、不動産小口化商品も施行日直前に駆け込み需要が発生する可能性が極めて高いです。
タワマン規制時には、2016年12月までに以下の動きが活発化しました。
- 駆け込み購入:規制前に高層階を購入し、低評価のうちに資産を取得
- 駆け込み贈与:規制前に子や孫に贈与し、低い贈与税評価額で済ませる
今回の不動産小口化商品についても、2026年中に駆け込み需要が加速すると予測されます。
他の節税スキームとの比較
過去に規制された主な相続税節税スキーム
1️⃣ 養子縁組による基礎控除の拡大(規制済み)
- 仕組み:養子を増やすことで法定相続人を増やし、基礎控除を拡大
- 規制:養子は実子がいる場合1人、いない場合2人まで(平成15年改正)
- 評価額と時価の乖離:なし(制度の抜け穴を利用)
2️⃣ 生命保険の非課税枠活用(現在も有効)
- 仕組み:生命保険金は「500万円×法定相続人数」まで非課税
- 規制:特になし(正当な節税手段として認められている)
- 評価額と時価の乖離:なし(非課税枠の活用)
3️⃣ 暦年贈与(2024年改正で縮小)
- 仕組み:年間110万円まで非課税で贈与
- 規制:相続時加算の対象期間が3年→7年に延長(2024年改正)
- 評価額と時価の乖離:なし(非課税枠の活用)
4️⃣ 教育資金・結婚子育て資金の一括贈与(期限付き優遇)
- 仕組み:教育資金1,500万円、結婚子育て資金1,000万円まで非課税
- 規制:適用期限あり(2026年3月31日まで)、使い切れない場合は課税
- 評価額と時価の乖離:なし(非課税枠の活用)
不動産小口化商品の特異性
他の節税スキームと比較して、不動産小口化商品とタワマン節税の特異性は以下の点です。
⚠️ 評価額と時価の乖離を利用するという点で、税制の「想定外の抜け穴」を突いている
他の節税スキームは「制度上の非課税枠」を活用するものであり、基本的に正当な節税手段です。一方、不動産小口化商品とタワマン節税は、評価方法の不備を利用した「グレーゾーン」であり、国税庁が問題視して規制に動いたという経緯があります。
2027年税制改正の影響と今後の展望
税制改正の内容
令和8年度税制改正大綱では、以下の見直しが示されました。
- 施行予定:2027年1月1日以降の相続・贈与から適用
- 評価方法の変更:「実際の取引価格ベース」での評価へ見直し
- 対象範囲:詳細は未定(どのスキームが対象になるか)
- 経過措置:既存商品・既存保有への適用範囲も未確定
駆け込み需要の発生予測
タワマン規制時と同様に、2026年中に駆け込み需要が急増すると予測されます。
- 2026年前半:富裕層が情報収集を開始、相談が増加
- 2026年中盤:駆け込み購入が本格化、商品在庫が不足
- 2026年後半:駆け込み贈与が加速、税理士事務所が繁忙
- 2026年12月:最後の駆け込みラッシュ、商品完売続出
販売会社への影響
不動産小口化商品を扱う企業(FPG、青山財産ネットワークスなど)は、短期的には駆け込み需要で特需、長期的には販売減少で業績悪化のリスクがあります。
- ✅ 2026年:駆け込み需要で過去最高益の可能性
- ⚠️ 2027年以降:節税効果が薄れ、販売が大幅減少
- ⚠️ 株価:長期的な業績悪化リスクを織り込み、低迷の可能性
投資家・購入検討者へのアドバイス
相続税対策として購入を検討している方へ
- 駆け込み購入は慎重に
- 税制改正の詳細が未定のため、「買ったが節税効果がなかった」というリスクあり
- 経過措置があるかどうかも不明(既存保有分が対象になる可能性もある)
- 流動性リスクに注意
- 不動産小口化商品は売却が困難(中途解約できない商品も多い)
- 「買ったら最後、相続まで保有」という覚悟が必要
- 税理士に必ず相談
- 自分の相続財産の状況に応じた最適な節税方法を専門家に相談すべき
- 不動産小口化だけでなく、生命保険、暦年贈与など複合的に検討
投資家(株式投資)の視点
不動産小口化商品を扱う企業の株式投資を検討している方は、以下の点に注意してください。
- ✅ 短期的には駆け込み需要で業績好調の可能性(2026年)
- ⚠️ 長期的には事業モデルの転換が必要(2027年以降)
- ⚠️ 配当利回りが高くても、減配リスクを織り込むべき
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まとめ
- ✅ 不動産小口化商品は「評価額と時価の乖離」を利用した相続税対策
- ✅ 従来は時価1億円が評価額3,500万円になるなど、節税効果は絶大だった
- ✅ タワマン節税と本質的に同じ構造で、規制の流れも類似
- ✅ 2027年1月1日から「実際の取引価格ベース」での評価に変更予定
- ✅ タワマン規制時と同様、2026年に駆け込み需要が発生する可能性が高い
- ✅ 駆け込み購入は慎重に。税制改正の詳細が未定のためリスクあり
- ✅ 不動産小口化商品を扱う企業の株は、短期的には特需、長期的には業績悪化リスク
「評価額と時価の乖離」を利用した節税スキームは、いずれ規制される運命にあります。過去のタワマン規制がそれを証明しており、今回の不動産小口化商品も同じ道をたどります。
相続税対策を検討している方は、税理士に相談し、複数の節税手段を組み合わせた総合的な戦略を立てることをお勧めします。