何が起きたのか
2025年12月19日、FPG(証券コード:7148)がストップ安で取引を終えた。翌日も値幅制限いっぱいの下落が続き、配当利回りは7%超えという異常事態となっている。
原因は「令和8年度税制改正大綱」に含まれた、不動産小口化商品の相続税評価見直し。FPGはこの商品の販売で大きく稼いでおり、税制メリットが消えれば需要が急減するとの懸念が売り材料となった。
配当利回り7%は魅力的に見えるが、「制度変更リスク」という特殊な要因を伴う急落であり、安易な割安判断は危険だ。この記事では、FPGのビジネスモデル、税制改正の影響範囲、三菱HCキャピタルなど競合との違いを整理し、投資判断の3つのポイントを提示する。
FPGとは?ビジネスモデルの全体像
独立系金融商品組成・販売会社
FPGは、節税(利益圧縮・繰延べ)ニーズを持つ顧客向けに、投資商品を設計して販売し、手数料を稼ぐビジネスモデルの会社だ。
「リース会社」というイメージを持たれがちだが、正確には「リース商品を含む金融商品の組成・販売会社」であり、自社でリース資産を大量に保有して賃貸収益を得る典型的なリース会社とは異なる。
3つの主要事業
1️⃣ リースファンド事業(日本型オペレーティングリース)
- 仕組み:案件ごとにSPC(特別目的会社)を設立
- 対象資産:航空機、船舶、コンテナなど
- 顧客:中小企業オーナー、富裕層(税務メリットを求める投資家)
- 収益源:組成・販売手数料、管理手数料
投資家はSPCへ出資し、SPCが航空機等を購入して航空会社などにリース。投資家は減価償却による節税効果を得られる。FPGは商品設計・販売で手数料を得る。
2️⃣ 国内不動産ファンド事業(不動産小口化商品)
- 仕組み:不動産を小口化して販売
- 顧客:相続・贈与対策を求める富裕層
- メリット:相続税評価の圧縮効果(※今回の税制改正で見直し対象)
- 収益源:販売手数料、管理手数料
今回の急落の主因はこの事業。不動産の相続税評価を「実際の取引価格ベース」に見直す方針が示され、税務メリットが大幅に減少または消滅する可能性が浮上した。
3️⃣ 海外不動産ファンド事業
- 対象:海外不動産への投資商品
- 売上規模:35.16億円(2025年9月期)
- 位置づけ:現時点では小規模
業績の実態:5年で3倍成長の光と影
驚異的な成長率
FPGの業績は過去5年で大幅に拡大している。
| 決算期 | 売上高 | 経常利益 | 純利益 |
|---|---|---|---|
| 2021年9月期 | 149.24億円 | 51.48億円 | 34.23億円 |
| 2022年9月期 | 591.93億円 | 124.66億円 | 90.24億円 |
| 2023年9月期 | 711.49億円 | 179.89億円 | 145.97億円 |
| 2024年9月期 | 1,077.81億円 | 286.09億円 | 204.27億円 |
| 2025年9月期 | 1,297.64億円 | 254.17億円 | 181.56億円 |
- 売上高:5年で約8.7倍(149億円 → 1,297億円)
- 経常利益:5年で約4.9倍(51億円 → 254億円)
- 純利益:5年で約5.3倍(34億円 → 181億円)
セグメント別の売上と粗利(2025年9月期)
売上高の内訳
- リースファンド:298.42億円(23.0%)
- 国内不動産ファンド:959.88億円(74.0%)← 圧倒的
- 海外不動産ファンド:35.16億円(2.7%)
- その他:4.17億円(0.3%)
売上総利益(粗利)の内訳
- リースファンド:231.45億円(64.0%)← 粗利率が高い
- 国内不動産ファンド:100.76億円(27.9%)
- 海外不動産ファンド:31.05億円(8.6%)
- その他:-2.82億円(-0.8%)
重要な示唆
- 売上は国内不動産が圧倒的(74%)だが、粗利はリースファンドが最大(64%)
- 国内不動産は売上規模が大きく、固定費吸収にも貢献するため、この事業が崩れると全社業績に大きな影響
- リースファンドは粗利率が高く、収益の柱だが、売上規模では国内不動産に大きく劣る
税制改正の影響範囲を読み解く
何が変わるのか
令和8年度税制改正大綱では、不動産小口化商品の相続税評価を「実際の取引価格ベース」に見直す方針が示された。
従来は、不動産の相続税評価額が実際の取引価格より低く評価されるケースがあり、これが相続税の節税メリットとなっていた。この評価方法の見直しにより、節税効果が大幅に縮小または消滅する可能性がある。
施行時期と経過措置
- 施行予定:2027年1月1日から
- 対象範囲:詳細はまだ不明(どのスキームが対象になるか)
- 経過措置:既存商品・既存保有への適用範囲も未確定
重要:大綱の段階では詳細が決まっておらず、法令化までにブレる可能性もある。しかし、市場は「最悪ケース」を先に織り込む傾向があるため、短期的には大きなボラティリティが続く可能性が高い。
FPGへのインパクト試算
国内不動産ファンド事業は、売上の74%、粗利の28%を占める。
- 最悪シナリオ:国内不動産の販売が大幅減少 → 売上・利益とも2~3割減の可能性
- 中間シナリオ:一部商品は売れ続ける → 影響は1割程度
- 楽観シナリオ:商品設計を変えて対応 → 影響軽微
FPG側は「顧客ニーズや市場の変化を十分に精査し、投資運用商品としての価値を高めるべく柔軟に取り組み方針を検討」と発表しているが、具体策はまだ見えていない。
競合との比較:大手リース会社との違い
リース業界の競合
FPGと同じ「リース」という言葉が付く企業として、大手リース会社(オリックス、東京センチュリー等)などがある。しかし、ビジネスモデルは大きく異なる。
総合リース会社(大手リース等)
- ビジネスモデル:自社で資産を保有し、リース収益を安定的に得る
- 収益源:リース料収入(安定収益)
- リスク:資産の価値下落、貸倒れリスク
- 特徴:大規模な資本が必要、景気変動に比較的強い
FPG(金融商品組成・販売型)
- ビジネスモデル:投資商品を設計・販売し、手数料を得る
- 収益源:組成・販売手数料(フロー収益)
- リスク:販売減少、制度変更リスク
- 特徴:資産を大量に持たない、節税ニーズに依存
大手リース会社は盤石、FPGは?
大手リース会社は、安定したリース収益を持ち、景気変動に強い。一方、FPGは販売型ビジネスであり、顧客の需要(特に節税ニーズ)に大きく依存する。
過去に大手リース会社を保有していた経験があるなら、FPGは「同じリース業」というより「金融商品販売業」として別物と考えるべきだ。
配当利回り7%超え、買い時か?
現在の株価指標
- 株価:1,698円前後(ストップ安後)
- 予想配当:125.40円/株(会社予想)
- 配当利回り:約7.4%
- PER:8~9倍
- PBR:3倍台
割安に見えるが…
配当利回り7%、PER8倍は一見魅力的だが、今回の下落は「制度変更リスク」という特殊な要因を伴っている。
通常の業績ブレなら「PERが低い=割安」と判断できるが、制度変更でEPS(1株利益)自体が大きく下方修正される可能性がある場合、見かけの割安は罠になる。
投資判断の3つのチェックポイント
✅ ポイント1:税制改正の「適用範囲」と「施行時期」を確認
- どのスキームが対象か
- 既存商品・既存保有への経過措置があるか
- いつから効くか(2027年1月1日が現在の予定)
この情報が明確になるまでは、株価は乱高下しやすい。焦って買わず、詳細を待つのが賢明。
✅ ポイント2:国内不動産事業の代替策を見極める
- 税務メリットが薄れても買われる商品設計ができるか
- 利回り、物件の魅力、流通の強さで差別化できるか
- 会社の具体的な対応策が示されるか
FPGが「商品設計の変更」や「新たな販売戦略」を具体的に示せれば、株価は反発する可能性がある。逆に、具体策が出ないまま時間が経過すれば、さらなる下落もあり得る。
✅ ポイント3:配当の持続性を確認
- 販売減少で利益が減っても配当を維持できるか
- 会社が「減配しない」方針を明示するか
- 自社株買いなど株主還元姿勢が継続するか
減配リスクが高い場合、配当利回り7%は絵に描いた餅になる。会社の発表を注視すべき。
個人的な見解と投資戦略
リース業は手堅いが、FPGは別物
「リース業は手堅い」というイメージは、大手リース会社には当てはまる。安定したリース収益があり、景気変動にも比較的強い。
一方、FPGは「金融商品販売業」であり、販売型ビジネス特有のリスク(需要の変動、制度変更)がある。同じ「リース」という言葉でも、ビジネスモデルが全く異なる点を理解すべきだ。
今の株価は買い時か?
結論:様子見が賢明
- ✅ 税制改正の詳細が明確になるまで待つ
- ✅ FPGの具体的な対応策が示されるのを確認
- ✅ 配当維持の可能性を見極める
配当利回り7%は魅力的だが、「制度変更リスク」という不確実性が大きすぎる。焦って飛びつくのではなく、情報が出揃ってから判断すべきだ。
もし投資するなら、「最悪シナリオ(減配+業績悪化)でも耐えられる金額」に留めるのが鉄則。
まとめ
- ✅ FPGは「金融商品販売業」であり、総合リース会社とは別物
- ✅ 業績は5年で3倍成長だが、国内不動産(売上74%)が税制改正で直撃
- ✅ 配当利回り7%は魅力的だが、減配リスクと業績悪化リスクが大きい
- ✅ 投資判断は「税制詳細」「代替策」「配当維持」の3点を確認してから
- ✅ 今は様子見が賢明。焦って飛びつかず、情報が出揃ってから判断
制度変更リスクは、通常の業績ブレとは次元が違う。情報が出揃うまで慎重に判断したい。