目次

  1. はじめに - 2026年1月の衝撃ニュース
  2. 三者の立ち位置:アメリカ、ロシア、ベネズエラ
  3. 直近の大事件:米軍によるマドゥロ拘束
  4. ベネズエラの「表と裏」- なぜ石油が重要なのか
  5. ロシアの「表と裏」- ベネズエラをどう使っているのか
  6. アメリカの「表と裏」- 本当の狙いは何か
  7. ウクライナ戦争との接続 - 全体像を整理する
  8. 米国は今後どう石油をコントロールするのか - 疑問と予測
  9. まとめ - 陰謀論ではなく、現実的な力学として
ベネズエラで何が起きている?アメリカ・ロシア・石油をめぐる複雑な関係を解説

はじめに - 2026年1月の衝撃ニュース

2026年1月3日、世界を揺るがすニュースが飛び込んできた。アメリカ軍がベネズエラに対して空爆と特殊作戦を実施し、ニコラス・マドゥロ大統領とその妻を拘束、ニューヨークに移送した。

トランプ大統領はその後、「アメリカがベネズエラを一時的に運営し、石油産業を立て直して世界に販売する」と宣言。国際的な批判が集中している。

アメリカの軍事介入は、直近50年を見ても基本的に石油が絡んでいる。湾岸戦争、イラク戦争、リビア介入、そして今回のベネズエラ。エネルギー資源の支配権が、常に軍事行動の裏側にある。

今回の状況を整理してみたい。「陰謀論」ではなく、各国が自国の利益を守るために動いている「現実的なパワーゲーム」として理解することが重要だ。

三者の立ち位置:アメリカ、ロシア、ベネズエラ

まず、この問題に関わる三者の立場を整理する。アメリカはマドゥロ政権を「非民主的で、麻薬犯罪と結びついた政権」と位置づけて、長年制裁を実施してきた。ウクライナ戦争が始まってからは、ロシアへの制裁で世界のエネルギー市場がタイトになり、「ベネズエラの原油を制裁緩和で取り込むか、それとも締め付けてロシア側から切り離すか」という揺れ動きを続けてきた。

一方、ロシアはベネズエラを「対米牽制の拠点+資源投資先」とみている。PDVSA(ベネズエラの国営石油会社)への油田担保ローン、合弁事業、武器売却などを通じて、経済・軍事的な結びつきを強化してきた。専門家の言葉を借りると、ベネズエラは「アメリカの裏庭で影響力を行使できる"嫌がらせパワー"の源泉」である。南米で米国と対立する政権を支えることで、国際舞台で「米国の一極支配に対抗する陣営」を演出でき、米国の注意とリソースを欧州(ウクライナ)以外にも分散させられる。

ベネズエラ(マドゥロ政権)は石油収入に依存する経済が崩壊し、制裁下で外貨が枯渇する中、ロシアと中国に頼って政権維持を図ってきた。ウクライナ戦争以降は、ロシアやイランと同じ「重制裁グループ」として、シャドーフリート(制裁逃れのタンカー網)で中国やインドなどに原油を売り続ける構図にいる。

直近の大事件:米軍によるマドゥロ拘束

2026年1月3日の軍事介入で、アメリカは実質的にベネズエラの安全保障とエネルギーを直接握りに行った形になった。

この結果:

  • ロシア・中国・キューバなどは強く非難し、「主権侵害」「国際法違反」として対米批判を強めている
  • ウクライナのゼレンスキー大統領は「もし国際社会がマドゥロのような独裁者を排除する行動を取れるなら、同じ基準をロシアの侵略にも適用すべきだ」という趣旨の発言を行った
  • この「ベネズエラ軍事介入」が、ロシアとの対立(ウクライナ戦争)とエネルギー制裁の文脈に強く絡んでいる

ベネズエラの利害 - なぜ石油が重要なのか

ベネズエラは収入の95%以上を石油輸出に依存してきた国である。産油量は90年代のピークから7割以上落ち込んだものの、依然として重質原油の大きな埋蔵量を持っている。米国・EUの制裁で公式な市場には出しづらくなり、ゴーストシップ(船籍偽装など)を使って主に中国向けに原油を売る構図になっていた。

制裁のせいで安値で売らされるが、それでも最低限の外貨を確保でき、政権周辺のエリートと軍・治安機関にリソースを回して体制を維持できる。さらにロシアや中国からのローン・投資の見返りに、油田権益や将来の原油供給を約束することで、外交的庇護も得られる。ウクライナ戦争以降、ロシア制裁で世界の原油市場がタイトになり、原油価格上昇はベネズエラにとって追い風だった(売れる量は少なくても、1バレルあたりの収入が増える)。

一方で、西側がロシア・イラン・ベネズエラの「シャドーフリート+制裁逃れネットワーク」をまとめて叩く方向に動き始めたため、タンカーや保険・決済に対する圧力が強まり、輸出そのものが詰まりつつあった。今回の軍事介入で、米軍の攻撃とタンカー封鎖により、PDVSAの輸出はさらに止まりつつあり、原油や燃料油をタンクや沖合ストレージに溜め込むしかない状態だと報じられている。トランプ大統領が「ベネズエラを一時的に運営し、石油を世界に売る」と宣言したことで、これまでロシア・中国向けに割り当てられていた原油が、どこまで米主導の枠組みに組み替えられるか、既存の契約(ロシアのローン担保など)がどう扱われるかという点で、「ベネズエラを担保にしてきたロシアや中国の利害」も揺らいでいる。

ロシアの利害 - ベネズエラをどう使っているのか

ロシアにとってベネズエラは、米国の裏庭で影響力を行使できる「嫌がらせパワー」の源泉である。南米で米国と対立する政権を支えることで、国際舞台で「米国の一極支配に対抗する陣営」を演出でき、米国の注意とリソースを欧州(ウクライナ)以外にも分散させられる。

エネルギー・金融面では、ロシアの国営/準国営企業(Rosneftなど)が、PDVSAとの合弁事業や油田担保ローンを通じて、数十億ドル規模の資金を原油で回収する権利を得てきた。西側制裁後は、自身も制裁対象となったロシアが、ベネズエラ・イランとともに、中国・インドなどに対する「割安原油供給ネットワーク」を形成し、シャドーフリートやオフショア取引を使って外貨を稼ぐ構図が強まっている。

今回の米軍事介入について、表向きはロシア外務省がマドゥロ拘束を「国際法違反」と強く非難し、釈放を要求している。ただし一部の分析では、米国が南米で長期的な統治・治安維持・再建に巻き込まれれば、NATOのリソースをウクライナ方面からそらすことができ、またロシアは「新政権」にもしたたかに接近し直すことに長けている(イラクやシリアで経験済み)という意味で、「損失もあるが地政学的な"利得"もありうる」と指摘されている。これは「ロシアが裏で米軍事介入を望んでいた」という陰謀論ではなく、起きてしまった事態から"どう計算するか"という現実的な損得勘定である。

アメリカの利害 - 本当の狙いは何か

公的な理由としては、アメリカはマドゥロ政権を「不正選挙・人権侵害・麻薬テロと結びついた独裁」と位置付け、個人・企業・石油セクターに対する制裁、マドゥロらのナルコテロ訴追、報奨金などで圧力をかけてきた。2023年には民主化交渉(バルバドス合意)へのインセンティブとして一部制裁緩和、2024年には選挙約束不履行を理由に再制裁、と「飴とムチ」を繰り返してきた。

しかし、ウクライナ戦争以降、アメリカにとってベネズエラは単なる「民主化問題」ではなく、対ロシア戦略とエネルギー安全保障の結節点になっている。ロシア制裁で欧州向けの供給が不安定になる中、ベネズエラ原油を制裁緩和で世界市場に戻せば価格安定の一助になる。逆に、ロシア・イラン・ベネズエラが組んで中国・インド向けに安売りする構図を崩したければ、タンカー封鎖やシャドーフリート取り締まりを強化する必要がある。実際に、2025年以降、米国はベネズエラ原油を運ぶタンカーや中国企業に対する制裁・関税を段階的に強めており、これはロシア・イランの「制裁逃れ経済圏」を狙い撃ちする流れの一部と見られている。

今回の軍事介入に見る「裏の利得」は、第一にエネルギー支配の強化である。ベネズエラの油田・輸出ルートを実質的に管理できれば、ロシア・イラン産の割安原油が中国・インドへ流れるルートを削ぎ、必要に応じてベネズエラ原油を欧米・同盟国向けに振り向け、世界価格に影響を与えやすくなる。第二に、ロシア企業の権益や中国向け "闇ルート" をひっくり返せれば、ロシアが回収できるはずだったローン原資と、中国が享受していた「制裁割安原油」を削ることができる。第三に、トランプ政権にとっては「独裁者を倒し、石油を確保する強いアメリカ」というイメージを有権者に示す材料になる、という内政上の利得も指摘されている。

ウクライナ戦争との接続 - 全体像を整理する

ウクライナ戦争とベネズエラ問題は、エネルギーと制裁を軸に深く絡み合っている。ロシア制裁によって世界の石油地図が再編され、欧米はロシア産依存を減らして他の供給源を探し、ロシアは中国・インド・グローバルサウスへ輸出転換した。その結果、ベネズエラ・イランとともに「割安原油ブロック」が事実上できあがった。

ロシア・イラン・ベネズエラの原油を運ぶ"制裁回避タンカー群"(シャドーフリート)が急拡大し、欧米はこれを大きな安全保障リスクとみなしている。アメリカの戦略は、このネットワークを分断するための一手としてベネズエラに焦点を当てることである。制裁を緩めて「こちら側」に引き寄せる試み(2023年の緩和)と、再制裁・タンカー封鎖・今回の軍事介入のような強硬策を組み合わせながら、「ロシア+イラン+ベネズエラ」のセットを崩しに行っている、というのが多くの専門家の見立てである。

ロシア側は、ウクライナ戦争で欧米と全面対立している以上、ベネズエラを含む「制裁仲間」をできるだけ維持したい。しかし、米国が軍事的にベネズエラを押さえてしまった場合でも、米国のリソースが南米に割かれればウクライナ戦線での圧力は相対的に薄くなり、またロシアは時間をかけて新しい政権にも入り込む余地があるという、損得両面の計算をせざるを得ない状況になっている。

米国は今後どう石油をコントロールするのか

今回の作戦で米軍はマドゥロ大統領とその妻を拘束したが、副大統領をはじめとする政権中枢の多くは現地に残っている。この状況で、アメリカはどのように石油産業を「運営」していくのか。

最も可能性が高いのは、アメリカが承認する野党指導者(たとえばマリア・コリーナ・マチャドやエドムンド・ゴンザレスなど)を中心とした暫定政権を樹立させるシナリオである。2019年にフアン・グアイドを暫定大統領として承認した前例があり、PDVSAの経営陣を親米派に入れ替え、外資(特に米国企業)との契約を優先し、既存のロシア・中国企業との契約を再交渉または無効化する流れになるだろう。

同時に、ベネズエラ軍はマドゥロ政権を長年支えてきた勢力だが、同時に利権も握っている。軍幹部は石油密輸や鉱山資源で巨万の富を得ており、体制転換後もその利権を守りたい動機がある。アメリカが軍幹部に「制裁解除」と「地位保全」を約束する見返りに、石油利権の一部を譲渡させる可能性もある。イラク戦争後の「スンニ派覚醒運動」のように、米国が元敵対勢力を取り込む戦略を使う可能性がある。

トランプ大統領の発言「アメリカがベネズエラを一時的に運営する」を文字通り実行するなら、米軍が直接PDVSAを管理下に置く可能性もある。イラク戦後の石油省占領やリビア介入時のNOC(国営石油会社)への影響力行使と類似するが、これは国際法違反との批判を受け、長期的な占領コストも膨大になる。

実務的な課題として、制裁と投資不足でベネズエラの石油インフラは荒廃している。原油生産量は90年代のピーク(日量350万バレル)から約70万バレルまで激減した。老朽化した油田、精製施設、パイプライン網の再建には数百億ドル規模の投資が必要で、技術者の流出(ベネズエラの石油エンジニアは500万人以上が国外脱出)も深刻である。米国企業(シェブロン、ハリバートン等)が再参入しても、短期間での生産回復は困難だろう。

ロシアのRosneftや中国のCNPCは、ベネズエラに対して数百億ドル規模のローンを石油で回収する契約を結んでいる。米国主導の新政権がこれらの契約を無効化すれば、国際的な投資紛争に発展する可能性がある。ロシア・中国は国際仲裁裁判所に提訴するだろうが、逆に米国が一部の契約を「尊重」する姿勢を見せ、段階的に影響力を削ぐ戦略もありうる。イラク戦後、米国はロシア企業の一部の油田権益を認めた前例がある。

現時点で最も現実的なのは、親米暫定政権の樹立と軍部との取引を組み合わせるシナリオだろう。米国は野党指導者を前面に立てつつ、裏では軍幹部に制裁解除と地位保全を約束し、PDVSAの経営権を掌握していく。ロシア・中国企業の契約は「再交渉」の名目で段階的に無効化されるか、大幅に不利な条件に変更される可能性が高い。ただし、短期的には混乱が続くだろう。マドゥロ派の残党による抵抗、中国・ロシアの外交圧力、そして何より石油インフラの荒廃が、すぐに原油生産を回復させることを困難にする。中期的(3〜5年)には、米国は確実にベネズエラの石油を自国のエネルギー戦略に組み込んでいくだろう。それがウクライナ戦争とロシア制裁の文脈でどれだけ効果的か、今後の展開を注視したい。

まとめ - 陰謀論ではなく、現実的な力学として

整理すると:

ベネズエラは

→ 原油依存と制裁で締め上げられた中、ロシア・中国に頼り、「制裁逃れ原油ネットワーク」の一角として生き残りを図ってきたが、米軍事介入で国家主権そのものが危機にある。

ロシアは

→ ウクライナ戦争で西側と全面対立する中、ベネズエラを「対米牽制の拠点+資源投資先」として使ってきた。米がベネズエラにのめり込むほど、NATOの集中力をそらせる一方、自らの投資やローンの回収が危うくなるという二面性がある。

アメリカは

→ 公的には「民主化・人権・麻薬対策」を掲げつつ、実際には

  • ロシア制裁とエネルギー戦略
  • シャドーフリートを中心とした制裁逃れネットワークの分断
  • ロシア・中国の影響力削減

という現実的な利得を同時に追っている。

「誰かが世界を裏で完全にコントロールしている」という意味での陰謀論ではない。各国が自国の安全保障・資源・国内政治を守るために、かなり露骨な"パワーゲーム"をしている結果として、いまの構図が生まれている。

僕たちにできるのは、こうした複雑な国際関係を「善悪」だけで判断せず、各国の利害を冷静に理解することだと思う。そうすることで、ニュースの背景にある本当の動きが見えてくる。

これからも、この問題は目が離せない。ベネズエラの行方が、ウクライナ戦争や世界のエネルギー市場にどう影響するのか、注視していきたい。