なぜ景気動向指数は覚えにくいのか?
中小企業診断士試験の経済学で、多くの受験生が苦戦するのが「景気動向指数」。
特に先行指標・一致指標・遅行指標の分類は、ただの暗記では絶対に覚えられない。
- 「新規求人数」は先行?一致?
- 「完全失業率」はなぜ遅行?
- 「在庫率指数」はなぜ遅行?
これらを丸暗記しようとすると、試験当日に必ず混乱する。
でも大丈夫。この記事では「理屈」で理解する方法を教える。
最強の覚え方:「経営者の気持ち」で考える
景気動向指数を理解する最大のコツは、「経営者の気持ちになって考える」こと。
景気回復のストーリー
あなたは中小企業の社長だ。景気が回復しそうな予感がする。さて、何から始める?
- 【先行】まず機械・設備に投資する
- 景気が良くなりそうだから、先に準備する
- 「新設住宅着工床面積」「機械受注」が増える
- 【先行】新しい人を探し始める
- 忙しくなる前に人材を確保したい
- 「新規求人数」が増える
- 【先行】在庫を減らす
- 売れるから在庫を出荷する
- 「在庫率指数」が下がる(=景気良化のサイン)
- 【一致】実際に生産・出荷が増える
- 準備が整って、今まさに忙しい
- 「鉱工業生産指数」「出荷指数」が上がる
- 【一致】売上が立つ
- 「商業販売額」が増える
- 【遅行】ようやく正社員を雇う
- 景気が本当に良いと確信してから
- 「常用雇用指数」が上がる
- 【遅行】失業者が減る
- 雇用が安定するのは最後
- 「完全失業率」が下がる
- 【遅行】法人税を払う
- 利益が出た「後」に税金を払う
- 「法人税収入」が増える
このストーリーを理解すれば、どの指標がどこに分類されるか、理屈で説明できるようになる。
先行指標:景気の「予兆」を示す
先行指標とは、景気が良くなる「前」に動く指標。
経営者が「これから忙しくなる」と判断して行動を起こす段階。
先行指標の全リスト(11指標)
1. 最終需要財在庫率指数(逆)
- なぜ先行? 景気が良くなると、在庫がどんどん売れて減る
- 逆の理由: 在庫率が「下がる」=景気が「良くなる」
- イメージ: 倉庫の商品が飛ぶように売れる
2. 鉱工業生産財在庫率指数(逆)
- なぜ先行? 工場の原材料在庫が減る=これから生産が増える
- 逆の理由: 在庫率が「下がる」=景気が「良くなる」
3. 新規求人数(除学卒)
- なぜ先行? 忙しくなる「前」に人を探す
- イメージ: 求人広告を出すのは、実際に忙しくなる前
4. 実質機械受注(製造業)
- なぜ先行? 工場が設備を買うのは、生産を増やす「前」
- イメージ: 新しい機械を導入して、増産に備える
5. 新設住宅着工床面積
- なぜ先行? 住宅建設が始まると、関連産業が活発化する
- イメージ: 建設ラッシュ→セメント・鉄鋼・家具が売れる
6. 消費者態度指数
- なぜ先行? 「これから買おう」という気持ちが、実際の消費より先
- イメージ: 消費者マインドが上がる→数ヶ月後に消費増
7. 日経商品指数(42種総合)
- なぜ先行? 商品価格は需要予測で先に動く
- イメージ: 原油・鉄鉱石の価格が先に上がる
8. マネーストック(M2)(前年同月比)
- なぜ先行? お金の流通量が増えると、景気が良くなる
- イメージ: 銀行の貸出が増える→企業が設備投資
9. 東証株価指数
- なぜ先行? 株価は将来の企業業績を織り込む
- イメージ: 「これから儲かる」と思うから株を買う
10. 投資環境指数(製造業)
- なぜ先行? 企業が「投資したい」と思うのは、景気回復の予兆
11. 中小企業売上げ見通しDI
- なぜ先行? 「これから売れる」という見通しが先行する
一致指標:景気の「今」を示す
一致指標とは、景気と「同時に」動く指標。
今まさに工場が動いている、店が忙しい、という「現在進行形」の状態。
一致指標の全リスト(10指標)
1. 生産指数(鉱工業)
- なぜ一致? 今まさに工場が稼働している
- イメージ: 工場のライン稼働率=景気そのもの
2. 鉱工業用生産財出荷指数
- なぜ一致? 今まさに製品が出荷されている
3. 耐久消費財出荷指数
- なぜ一致? 家電・車が今まさに売れている
4. 所定外労働時間指数(調査産業計)
- なぜ一致? 今まさに残業が増えている=忙しい証拠
- イメージ: 景気が良い→残業代が増える
5. 投資財出荷指数(除輸送機械)
- なぜ一致? 設備投資が今まさに行われている
6. 商業販売額(小売業)(前年同月比)
- なぜ一致? 今まさに店で商品が売れている
7. 商業販売額(卸売業)(前年同月比)
- なぜ一致? 今まさに卸が動いている
8. 営業利益(全産業)
- なぜ一致? 今期の利益=現在の景気
9. 有効求人倍率(除学卒)
- なぜ一致? 今まさに求人と求職のバランスが変化している
- 注意: 「新規求人数」は先行、「有効求人倍率」は一致
10. 輸出数量指数
- なぜ一致? 今まさに輸出が増えている
遅行指標:景気の「確認」を示す
遅行指標とは、景気が良くなった「後」に動く指標。
「本当に景気が良くなったんだ」と確信してから動く、慎重な行動を示す。
遅行指標の全リスト(9指標)
1. 第3次産業活動指数(対事業所サービス業)
- なぜ遅行? サービス業は景気回復が確実になってから動く
- イメージ: 製造業が儲かる→その後コンサル需要増
2. 常用雇用指数(調査産業計)(前年同月比)
- なぜ遅行? 正社員を雇うのは、景気が本当に良いと確信してから
- イメージ: 「一時的じゃない」と確信→正社員採用
- 重要: 「新規求人数」は先行、「常用雇用」は遅行
3. 実質法人企業設備投資(全産業)(前年同期比)
- なぜ遅行? 大型投資は慎重に判断する
- 注意: 「機械受注」は先行、「実際の設備投資」は遅行
4. 家計消費支出(勤労者世帯、名目)(前年同月比)
- なぜ遅行? 給料が上がって、生活が安定してから消費が増える
- イメージ: ボーナスが出た後、ようやく買い物
5. 法人税収入
- なぜ遅行? 利益が出た「後」に税金を払う
- イメージ: 決算→納税は数ヶ月後
6. 完全失業率(逆)
- なぜ遅行? 雇用が安定するのは最後
- 逆の理由: 完全失業率が「下がる」=景気が「良くなる」
- イメージ: 景気回復→企業が人を雇う→失業者減少
7. きまって支給する給与(製造業、名目)
- なぜ遅行? 給料が上がるのは、会社が儲かった後
8. 消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)(前年同月比)
- なぜ遅行? 需要が増えて、物価が上がるのは最後
- イメージ: 景気回復→需要増→インフレ
9. 最終需要財在庫指数
- なぜ遅行? 売れ残りが確定するのは後
- 注意: 「在庫率指数」は先行、「在庫指数」は遅行
試験対策:紛らわしい指標の整理
絶対に間違えやすいペア
1. 在庫関連
- 在庫率指数(逆) → 先行指標
- 在庫指数 → 遅行指標
- 覚え方: 「率」は効率の話=先を見る。「量」は結果=後で確定
2. 雇用関連
- 新規求人数 → 先行指標(人を「探す」のが先)
- 有効求人倍率 → 一致指標(今の需給バランス)
- 常用雇用指数 → 遅行指標(正社員を「雇う」のが後)
- 覚え方: 探す→今→雇う の順番
3. 投資関連
- 機械受注 → 先行指標(注文が先)
- 投資財出荷指数 → 一致指標(納品が今)
- 実質法人企業設備投資 → 遅行指標(大型投資は後)
- 覚え方: 注文→納品→本格投資 の順番
4. 失業率
- 完全失業率(逆) → 遅行指標
- 逆の理由: 失業率が「下がる」=景気が「良くなる」
- 覚え方: 失業者が減るのは、景気回復の最後の段階
DIとCIの違い
DI(Diffusion Index:ディフュージョン・インデックス)
- 意味: 景気の「方向性」を見る
- 計算式: (改善指標数 + 0.5×不変指標数)÷ 全指標数 × 100
- 判断基準: 50%が分岐点
- 50%超: 景気拡張局面
- 50%未満: 景気後退局面
- イメージ: 「良くなった指標」の割合
CI(Composite Index:コンポジット・インデックス)
- 意味: 景気の「強さ・速さ」を見る
- 特徴: 各指標の変化率を合成
- 判断: 上昇率が大きいほど景気が強い
- イメージ: 景気の「スピードメーター」
使い分け
- DI: 「景気の転換点」を見つける(山・谷の判定)
- CI: 「景気の勢い」を測る(どれくらい強いか)
試験での頻出パターン
よく出る問題
- 「次のうち先行指標はどれか?」
- 引っかけ:「常用雇用指数」「完全失業率」を混ぜる
- 正解:「新規求人数」「機械受注」「在庫率指数(逆)」
- 「遅行指標として正しいものはどれか?」
- 引っかけ:「新規求人数」を混ぜる
- 正解:「常用雇用指数」「完全失業率(逆)」「法人税収入」
- 「DIが50%を超えると?」
- 正解:景気拡張局面
引っかけポイント
- 「在庫率指数」と「在庫指数」を混同させる
- 「新規求人数」と「常用雇用指数」を混同させる
- 「機械受注」と「実質法人企業設備投資」を混同させる
- 「逆」がつく指標を忘れさせる(在庫率指数、完全失業率)
最速暗記法:3ステップ
ステップ1:ストーリーで流れを理解
経営者の気持ちで考える:
準備(先行)→ 実行(一致)→ 確認(遅行)
ステップ2:紛らわしいペアを整理
- 在庫「率」vs 在庫「指数」
- 新規「求人」vs 常用「雇用」
- 「機械受注」vs「設備投資」
ステップ3:「逆」を確認
- 最終需要財在庫率指数(逆)
- 鉱工業生産財在庫率指数(逆)
- 完全失業率(逆)
「下がる」=「良くなる」
まとめ
景気動向指数は、「理屈」で覚えれば絶対に忘れない。
- 先行指標: 経営者が「準備」する段階(新規求人、機械受注、在庫率↓)
- 一致指標: 今まさに「実行」している段階(生産、出荷、売上)
- 遅行指標: 「確認」してから動く段階(正社員雇用、法人税、失業率↓)
紛らわしいペア:
- 在庫「率」は先行、在庫「指数」は遅行
- 「新規求人」は先行、「常用雇用」は遅行
- 「機械受注」は先行、「設備投資」は遅行
「逆」がつく3つ:
- 在庫率指数(逆)→ 先行
- 完全失業率(逆)→ 遅行
このストーリーを頭に入れて、過去問を解けば、景気動向指数は得点源になる。
理屈で理解して、絶対に忘れないようにしよう!