はじめに
個人事業主になったら、小規模企業共済とiDeCoに満額入れて所得を最大限減らす。これが正解だ。
「退職所得控除は年数で決まるから、少額で長く積み立てた方が得じゃないの?」という質問をもらうことがある。一見正しそうに聞こえるが、実際は違う。満額積み立てた方が圧倒的に得だ。
今日は、小規模企業共済とiDeCoの節税効果を数字で示しながら、なぜ満額積み立てが正義なのかを解説する。
小規模企業共済とiDeCoの基本
小規模企業共済とiDeCoは、個人事業主が使える最強の節税ツールだ。どちらも共通して、以下の特徴がある。
- 入口: 掛金は全額所得控除(所得税・住民税が減る)
- 出口: 退職所得として受け取れる(税制優遇)
- 運用中: 小規模企業共済は約8割を借入可能(運用に回せる)
小規模企業共済の掛金は月額1,000円〜70,000円(年間最大84万円)。iDeCoは職業によって上限が異なるが、個人事業主なら月額68,000円(年間81.6万円)まで積み立てられる。
退職所得控除の仕組み
退職所得控除は、勤続年数(積立年数)によって決まる。
退職所得控除の計算式
- 20年以下:40万円 × 年数
- 21年以上:800万円 + 70万円 × (年数 - 20年)
例えば、20年積み立てた場合の退職所得控除は?
40万円 × 20年 = 800万円
つまり、20年積み立てれば800万円まで非課税で受け取れる。
少額 vs 満額:どっちが得?
ここで比較してみる。「月額4万円を20年」vs「月額7万円を20年」。どちらが得か?
ケース1: 月額4万円(年間48万円)× 20年
総積立額: 48万円 × 20年 = 960万円
退職所得控除: 800万円
控除後: 960万円 - 800万円 = 160万円
退職所得: 160万円 × 1/2 = 80万円
税金: 約8万円(所得税・住民税)
ケース2: 月額7万円(年間84万円)× 20年
総積立額: 84万円 × 20年 = 1,680万円
退職所得控除: 800万円
控除後: 1,680万円 - 800万円 = 880万円
退職所得: 880万円 × 1/2 = 440万円
税金: 約44万円(所得税・住民税)
一見すると、ケース1は税金8万円、ケース2は税金44万円で、ケース1の方が得に見える。でも、これは大きな間違いだ。
入口の節税効果が圧倒的
退職所得の税金だけを見ると損に見えるが、毎年の所得控除による節税効果を忘れてはいけない。
仮に、あなたの年間所得が2,000万円だとしよう。この場合、所得税率は40%、住民税10%で合計50%の税率だ。
毎年の節税効果(所得2,000万円の場合)
ケース1(年48万円): 48万円 × 50% = 24万円/年
ケース2(年84万円): 84万円 × 50% = 42万円/年
差額: 42万円 - 24万円 = 18万円/年
20年間では?
ケース1の節税総額: 24万円 × 20年 = 480万円
ケース2の節税総額: 42万円 × 20年 = 840万円
差額: 840万円 - 480万円 = 360万円
ケース2は出口で44万円の税金を払うが、入口で360万円多く節税できる。差し引き316万円の得だ。
つまり、満額積み立てた方が圧倒的に得なのだ。
小規模企業共済の8割借入がさらにヤバい
小規模企業共済には、もう一つすごい機能がある。積立金の約8割を借り入れできるのだ。
年間84万円を積み立てた場合、その8割の約67万円を借り入れできる。つまり、実質的に手元に残るのは84万円 - 67万円 = 17万円だ。
実質的な利回り計算
積立額: 84万円
借入額: 67万円
実質負担: 17万円
節税効果: 42万円
実質利回り: 42万円 ÷ 17万円 = 約247%
実質17万円しか預けていないのに、42万円の節税効果がある。これは銀行預金の利息が数円なのと比べて、圧倒的な利回りだ。
さらに、借り入れた67万円を資産運用に回せば、その運用益も加わる。入口・出口・運用中のすべてで節税と資産形成ができる最強のスキームだ。
S&P500で運用したらどうなる?20年シミュレーション
借り入れた資金とiDeCoの積立をS&P500で運用した場合のシミュレーションをしてみる。S&P500の年平均リターンを5%と仮定する。
小規模企業共済の借入運用(20年)
毎年の借入額: 67万円(84万円の8割)
年利: 5%(S&P500想定)
20年後の運用総額: 約2,217万円
借入元本合計: 67万円 × 20年 = 1,340万円(返済必要)
実質的な利益(運用益のみ): 約877万円
※借入金1,340万円は退職時に共済金から返済するため、手元に残るのは運用益のみ
iDeCoの運用(20年)
毎月の積立額: 6.8万円(年間81.6万円)
年利: 5%(S&P500想定)
20年後の運用総額: 約2,700万円
元本合計: 81.6万円 × 20年 = 1,632万円
運用益: 約1,068万円
最終的な資産(20年後)
小規模企業共済: 1,680万円(積立元本、退職時に受取)
借入運用の利益: 約877万円(運用益のみ、借入金は返済済み)
iDeCo運用総額: 約2,700万円
手元に残る総資産: 約5,257万円
資産形成の内訳
- 実質的な手出し: 1,632万円(iDeCoのみ、小規模共済は借入で運用)
- 運用益: 約1,945万円(借入877万円+iDeCo1,068万円)
- 節税効果: 1,656万円(20年分)
- 合計: 約5,233万円 + 小規模共済元本1,680万円 = 約6,913万円
※小規模企業共済の元本1,680万円は実質17万円/年の手出しで積み立て(借入67万円を運用に回すため)
実質的な手出しは年間約101万円(小規模17万円+iDeCo81.6万円=98.6万円)だけで、20年間で約6,900万円の資産を作れる計算だ。
出口戦略:小規模企業共済とiDeCoは一緒にもらうべきか?
小規模企業共済とiDeCoを受け取るタイミングは、慎重に考える必要がある。
❌ 同じ年にもらうと損をする
小規模企業共済とiDeCoは、どちらも退職所得控除を使う。同じ年に両方を受け取ると、退職所得控除が合算されず、片方しか控除が使えない可能性がある。
例: 20年積み立てた場合の退職所得控除は800万円。
- 小規模企業共済: 1,680万円
- iDeCo: 2,700万円
- 合計: 4,380万円
同時に受け取ると、4,380万円 - 800万円 = 3,580万円が課税対象になる。これを半分にしても1,790万円に税金がかかる。
✅ 5年以上ずらしてもらう(19年ルール)
退職所得控除には「19年ルール」がある。2回目の退職金を受け取る際、前回の退職金受取から19年以上経過していれば、退職所得控除を満額使える。
ただし、19年は長すぎるので、実務的には5年以上ずらすのが一般的だ。
例:
- 60歳で小規模企業共済を受け取る → 退職所得控除800万円を使う
- 65歳でiDeCoを受け取る → 退職所得控除を再度使える(5年分リセット)
この場合、小規模企業共済1,680万円のうち800万円は非課税、残り880万円の半分(440万円)が課税対象。
iDeCoは2,700万円から新たに計算した退職所得控除(800万円)を引いて、残り1,900万円の半分(950万円)が課税対象。
💡 最適な受け取り戦略
パターン1: 少額の方を先に受け取る
- 60歳: 小規模企業共済1,680万円を受け取る(税金約44万円)
- 65歳: iDeCo2,700万円を受け取る(5年ずらせば新たに控除が使える)
パターン2: iDeCoを年金形式で受け取る
- 60歳: 小規模企業共済を一時金で受け取る
- 65歳〜: iDeCoを年金形式(10〜20年分割)で受け取る → 雑所得として公的年金等控除を使える
年金形式なら、毎年の所得を分散できるため、税率を抑えられる可能性がある。
結論: 小規模企業共済とiDeCoは5年以上ずらして受け取るか、片方を年金形式で受け取るのが最適だ。
まとめ:お金が増える節税もある
世の中には、お金が減る節税とお金が増える節税がある。
お金が減る節税は、経費を増やして所得を減らす方法だ。税金は減るが、手元に残るお金も減る。一方、お金が増える節税は、資産を積み上げながら税金を減らす方法だ。小規模企業共済とiDeCoは、まさにこれに該当する。
お金が増える節税の3つの条件
- 入口で節税: 掛金が全額所得控除される
- 出口で節税: 退職所得控除で税負担が軽くなる
- 運用に回せる: 積み立てた資金を投資に活用できる
特に、入口と出口の両方で節税でき、かつ運用して回せるスキームは非常に強力だ。
小規模企業共済は積立金の8割を借り入れて運用に回せる。iDeCoは運用商品を自分で選べる。どちらも、ただ預けるだけでなく、資産形成の武器として使えるのだ。
実質手出し約2,000万円で約6,900万円の資産を作りながら、1,600万円以上の節税ができる。これが、入口・出口・運用中の全てで節税できるスキームの威力だ。
個人事業主になったら、小規模企業共済とiDeCoに満額入れる。そして8割借り入れてS&P500に投資する。これが最適解だ。