屈折需要曲線とは何か
屈折需要曲線(キンク需要曲線、Kinked Demand Curve)は、寡占市場における企業の需要曲線のモデルだ。
教科書では複雑なグラフが並ぶが、本質は単純。「価格を上げると誰もついてこないが、価格を下げるとみんな対抗してくる」という競合の行動パターンを表したものだ。
この結果、需要曲線が屈折点で折れ曲がり、価格が変わりにくくなる。これが寡占市場の価格硬直性を説明する理論だ。
寡占市場とは?
まず、寡占市場(Oligopoly)について理解しよう。
🏢 寡占市場の特徴
- 少数の企業が市場を支配している
- 企業同士が相互に影響し合う(競合の価格戦略を意識する)
- 価格を一方的に決められない(完全競争と異なる)
- 独占ほど自由でもない(独占市場と異なる)
具体例
- 携帯キャリア:docomo、au、Softbank
- コンビニ:セブンイレブン、ファミリーマート、ローソン
- ビール業界:アサヒ、キリン、サントリー、サッポロ
- 航空業界:JAL、ANA
こうした市場では、競合の反応を見ながら価格戦略を決めるのが常だ。
なぜ需要曲線が「屈折」するのか
屈折需要曲線の核心は、価格を上げた場合と下げた場合で、競合の反応が異なるということだ。
① 価格を上げた場合
競合の反応:「お、あいつ値上げしたな。うちはそのままでいこう」
結果:値上げした企業だけが顧客を失う
→ 需要が大きく減少する(需要曲線の傾きが急)
なぜ誰もついてこないのか?
寡占市場では、他社が値上げしなければ、値上げした企業は顧客を奪われる。だから、他社は値上げに追随するインセンティブがない。
② 価格を下げた場合
競合の反応:「あいつが値下げした!うちも下げないと顧客を奪われる」
結果:みんな値下げするので、顧客はあまり増えない
→ 需要はわずかしか増えない(需要曲線の傾きが緩やか)
なぜみんな対抗してくるのか?
値下げを放置すると顧客を奪われるため、他社も即座に値下げで対抗する。結果、全社が値下げしても市場シェアはほとんど変わらない。
結果:価格を上げても下げても損をする。だから価格は現状維持が最適となり、価格が硬直的(変わりにくい)になる。
屈折需要曲線のグラフを理解する
屈折需要曲線は、現在の価格Pで「カクッ」と折れ曲がる。
📊 グラフの特徴
- 屈折点:現在の価格P₀、数量Q₀の位置
- 上側の需要曲線:傾きが急(価格を上げると需要が大きく減る)
- 下側の需要曲線:傾きが緩やか(価格を下げても需要はあまり増えない)
なぜこうなる?
価格を上げると他社はついてこないので、自社だけが顧客を失い、需要が急減する(急な傾き)。
価格を下げると他社も対抗してくるので、全社が値下げして需要はわずかしか増えない(緩やかな傾き)。
限界収入曲線の不連続性
屈折需要曲線の重要なポイントは、限界収入曲線(MR曲線)が不連続になることだ。
📐 限界収入曲線とは
限界収入(MR)= 追加で1単位売ったときの収入増加額
需要曲線が屈折すると、MR曲線は屈折点で垂直に不連続になる。
なぜ不連続になるのか?
需要曲線が屈折点で傾きが変わるため、限界収入曲線も急激に変化する。その結果、MR曲線が垂直に「ジャンプ」する。
これが意味すること
限界費用曲線(MC)が多少シフトしても、均衡価格・均衡数量が変わらない
MR曲線の不連続な部分(垂直部分)にMC曲線があれば、MCが少し上下しても、MR=MCの均衡点は変わらない。
→ だから、価格が変わらない(価格硬直性)
具体例で理解する:コンビニの価格戦略
コンビニ3社(セブン、ファミマ、ローソン)で考えてみよう。現在、おにぎりは150円で販売している。
シナリオ①:セブンが160円に値上げ
ファミマ・ローソンの反応:「うちは150円のまま」
結果:セブンの顧客がファミマ・ローソンに流れる
→ セブンの売上が大幅減少
シナリオ②:セブンが140円に値下げ
ファミマ・ローソンの反応:「うちも140円に下げる!」
結果:全社が140円になり、市場シェアはほぼ変わらず
→ 値下げしても売上はあまり増えない
結論:価格を変えても得をしないので、150円のまま維持するのが最適戦略。これが価格硬直性だ。
試験でよく出るポイント
🎯 試験頻出ポイント
- 屈折需要曲線は寡占市場のモデルである(独占や完全競争では出てこない)
- 価格を上げると他社はついてこない(需要曲線が急)
- 価格を下げると他社も対抗してくる(需要曲線が緩やか)
- 限界収入曲線(MR)が屈折点で不連続になる
- 価格硬直性が生じる(価格が変わりにくい)
⚠️ 注意:屈折需要曲線の限界
屈折需要曲線モデルは、現在の価格がなぜその水準なのかは説明できない。あくまで「現在の価格が変わりにくい理由」を説明するモデルだ。
また、すべての寡占市場に当てはまるわけではない。競合が協調的な場合(カルテルなど)は、このモデルは適用されない。
他の寡占モデルとの違い
中小企業診断士試験では、寡占市場の理論として他にもいくつかのモデルが出題される。
📚 主な寡占モデル
- クールノーモデル:企業が生産量で競争する
- ベルトランモデル:企業が価格で競争する
- シュタッケルベルクモデル:リーダー企業とフォロワー企業がいる
- 屈折需要曲線モデル:価格が硬直的になる理由を説明
屈折需要曲線は、価格硬直性の説明に特化したモデルだと理解しておこう。
まとめ
- 屈折需要曲線は寡占市場における需要曲線のモデル
- 価格を上げると他社はついてこないため、需要が大きく減る(急な傾き)
- 価格を下げると他社も対抗してくるため、需要はわずかしか増えない(緩やかな傾き)
- 限界収入曲線が不連続になるため、限界費用が変化しても価格が変わらない
- これが価格硬直性を生む理由
- 試験では寡占市場の特徴とMR曲線の不連続性が頻出
🎯 試験対策の最重要ポイント
- 寡占市場のモデルであることを理解
- 価格の上下で競合の反応が異なる(上げると追随しない、下げると対抗する)
- 限界収入曲線の不連続性が価格硬直性を生む
- グラフ問題では屈折点とMR曲線の垂直部分に注目
屈折需要曲線は、寡占市場の現実的な価格行動を説明する重要な理論だ。試験では頻出だが、一度理解すれば確実に得点できる分野なので、しっかり押さえておこう!