なぜハンドメイド事業で考えるのか
中小企業診断士の経済学・経済政策では、「限界費用(MC)」「平均可変費用(AVC)」「平均費用(AC)」といった費用概念が頻出する。
しかし、教科書の数式やグラフだけでは理解が難しいと感じる方も多いはず。そこで今回は、ハンドメイドアクセサリー事業を例に、これらの費用概念を実務的に理解してみる。
身近な事業で考えることで、試験対策だけでなく、実務での応用力も身につく。
前提:ハンドメイドアクセサリー事業の費用構造
商品:ハンドメイドのピアス(1個あたり販売価格2,000円)
🏠 固定費(FC):月額30,000円
- 作業スペースの賃料:15,000円
- 工具・設備の減価償却費:10,000円
- 通信費・光熱費:5,000円
👉 固定費は生産量に関係なく毎月発生する費用
📦 可変費(VC):1個あたり800円
- 材料費(ビーズ、金具など):600円
- 包装資材:100円
- 送料:100円
👉 可変費は生産量に比例して増える費用
① 平均費用(AC:Average Cost)とは
平均費用は、製品1個あたりの総費用。固定費と可変費の両方を含む。
📐 平均費用(AC)= 総費用(TC)÷ 生産量(Q)
総費用(TC)= 固定費(FC)+ 可変費(VC)
💰 ハンドメイド事業での計算例
ケース1:月に50個のピアスを作った場合
- 固定費:30,000円
- 可変費:800円 × 50個 = 40,000円
- 総費用:30,000円 + 40,000円 = 70,000円
- 平均費用:70,000円 ÷ 50個 = 1,400円/個
💡 販売価格2,000円に対して平均費用1,400円なので、1個あたり600円の利益が出る。
ケース2:月に100個作った場合
- 固定費:30,000円(変わらず)
- 可変費:800円 × 100個 = 80,000円
- 総費用:30,000円 + 80,000円 = 110,000円
- 平均費用:110,000円 ÷ 100個 = 1,100円/個
✅ 生産量が増えることで、固定費が多くの製品に分散され、1個あたりの平均費用が下がる。これが「規模の経済」の基本。
② 平均可変費用(AVC:Average Variable Cost)とは
平均可変費用は、製品1個あたりの可変費用。固定費は含まない。
📐 平均可変費用(AVC)= 可変費(VC)÷ 生産量(Q)
💰 ハンドメイド事業での計算例
可変費は1個あたり800円なので、生産量に関わらず:
- 50個作っても:40,000円 ÷ 50個 = 800円/個
- 100個作っても:80,000円 ÷ 100個 = 800円/個
⚠️ この例では、平均可変費用は常に800円。
🚨 なぜAVCが重要か?「操業停止点」の判断基準
企業が事業を続けるかどうかの判断基準として、販売価格が平均可変費用を下回った場合、短期的には操業を停止すべきとされる。
ハンドメイド事業の場合
- 販売価格が800円を下回る場合、作れば作るほど損失が膨らむ
- 固定費は支払い済みなので回収できないが、可変費分も赤字になるなら作らない方がマシ
✅ 販売価格 > AVC であれば、固定費の一部でも回収できるため、短期的には事業を続ける意味がある。
③ 限界費用(MC:Marginal Cost)とは
限界費用は、もう1個追加で生産するときにかかる費用。
📐 限界費用(MC)= 総費用の変化分 ÷ 生産量の変化分
または、MC = dTC / dQ(微分)
💰 ハンドメイド事業での計算例
この事例では、1個追加するごとに材料費・包装・送料だけが増えるため:
- 限界費用 = 800円
50個目を作るときも、51個目を作るときも、限界費用は常に800円。
🤔 限界費用と意思決定
「もう1個作るべきか?」を判断するとき、限界費用が重要になる。
- 販売価格2,000円 > 限界費用800円 → 作るべき
- 販売価格が800円以下になったら → 作らない方がいい
💡 限界費用が販売価格を下回っている限り、追加生産には利益がある。
④ 3つの費用概念の関係性
📊 費用の包含関係
- 平均費用(AC):固定費と可変費の両方を含む、製品1個あたりの総費用
- 平均可変費用(AVC):可変費のみを含む、製品1個あたりの費用
- 限界費用(MC):追加1個を作るときの費用増加分
💹 数値で見る比較(50個生産時)
| 費用概念 | 金額 | 内訳 |
|---|---|---|
| 平均費用(AC) | 1,400円 | (固定費30,000円 + 可変費40,000円)÷ 50個 |
| 平均可変費用(AVC) | 800円 | 可変費40,000円 ÷ 50個 |
| 限界費用(MC) | 800円 | 51個目を作るときの追加費用 |
⑤ 試験対策:グラフの読み方
中小企業診断士試験では、費用曲線のグラフが頻出する。
重要ポイント
- AC曲線とAVC曲線:生産量が増えると下がっていき、ある点から上昇する(U字型)
- MC曲線:AC曲線とAVC曲線の最低点を通る
- 操業停止点:価格がAVC曲線の最低点を下回る点
- 損益分岐点:価格がAC曲線の最低点を下回る点
⚠️ ハンドメイド事業の例では、可変費が一定だったため曲線が単純だったが、実際には規模が大きくなると効率が変化し、U字型の曲線になる。
⑥ 実務への応用:価格設定と意思決定
💰 価格設定の考え方
- 長期的な価格設定:平均費用(AC)を上回る価格が必要
- 短期的な値引き判断:平均可変費用(AVC)を上回っていれば受注可能
- 追加受注の判断:限界費用(MC)を上回る価格なら受注すべき
📋 ケーススタディ:特別注文の判断
状況:「1個1,200円で30個まとめて注文したい」という依頼が来た。受けるべきか?
分析:
- 通常の平均費用1,400円よりは安いが…
- 限界費用800円は上回っている
- 固定費は既に支払っているので、追加生産には1個あたり400円の利益がある
✅ 結論:受けるべき!固定費は既に発生しているため、限界費用を上回る価格であれば利益が出る。
まとめ:費用概念を実務で使いこなす
- 平均費用(AC):長期的な価格設定の基準。これを下回る価格では事業継続が困難。
- 平均可変費用(AVC):短期的な操業停止判断の基準。これを下回ったら作らない方がマシ。
- 限界費用(MC):追加生産の意思決定の基準。これを上回る価格なら追加生産すべき。
中小企業診断士試験の経済学・経済政策では、これらの概念を理論的に問われる。しかし、実務でも価格設定や受注判断に直結する重要な考え方だ。
ハンドメイド事業のような身近な例で理解を深め、試験対策と実務応用の両方に活かしていこう。